『IQ』

 本を選ぶ、本を買う、といったときに、アマゾンでのレビューを参考にすることがとてもよくあります。何かのランキング(例えば「このミステリーがすごい!」とか、全くの一般人が自分の好みの本を個人のサイトに並べているもの等)を見て「面白そうだな」と思ったものを買う前にほぼ必ずアマゾンのレビューをチェックします。あるいは、書店でたまたま目に付いて、手にとってパラパラとページをめくってみて、面白そうな気もするんだけど、どうなんだろうか、と思った際にもすぐにスマホを取り出して、アマゾンでレビューをチェックします。
 この「アマゾンのレビューに頼った方式」は、うまくいく時もありますし、そうでない時もあります。その小説を面白いと感じるかどうかは、好みの問題ですから、他人の評価が自分にも当てはまるとは限りませんし、そもそもそのレビューが公平な立場から率直な感想を述べているとは限りません、つまり、いわゆる「フェイクレビュー」であることも少なからずあるでしょうし。
 しかし、「アマゾンでの評価を信用して買って読んでみたらハズレだった」ということがここ最近3回ほど続いております。
 先日読んだのが、『IQ』というアメリカのミステリー小説。IQというのは、主人公であるアイゼイア・クィンターベイのイニシャルであるとともに「知能指数」を示すIQという意味も込められています。この主人公は10代の黒人で、明晰な頭脳で問題を解決するらしいので、これはもしかしたらコナン君のアメリカ版なのかと期待が膨らみ、どんな難事件を見事に解決してくれるのだろうかと楽しみしながら読んでいったのですが、事件そのものはそれほどでもなく、途中で読むのを止めようかとも思いましたが、決断がつかないまま結局最後まで読んでしまいました。ストーリー自体はよくあるっちゃあるパターンですが、登場人物たちが交わす会話から滲み出てくるものに魅力を感じ、それが最後まで読ませられた理由かもしれません。ドラマの舞台はロサンゼルスの貧困地域ですので、そこで交わされる言葉はお世辞にも上品とは言えませんし、そういう言葉はこのエリアに住む人にとっては普通の日常会話に過ぎず、何ら特別のものではないのでしょうが、私にとっては新鮮でした。これはもしかしたら、落語に出てくる熊さんや八っつぁんが交わす江戸の会話のよなものなのかもしれません。

 さて、この小説の作者はジョー・イデ。黒人社会の生活の様子が細かく描写されているので、てっきり黒人の作家だと思っていたのですが、巻末の解説を読んでこの作者が日系アメリカ人であると知り、驚きました。イデは「井出」なのかな。
 何故、こんなにも黒人社会のカルチャーに詳しいかというと、黒人が多く住むロサンゼルスのサウスセントラル地区で育ったからだそうです。
 
 この作者の作品をもう少し読んでみたいと思ったのですが、残念ながら日本ではまだこの1作しか出版されていません。早く次の本が出ないかな。

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

IQ (ハヤカワ・ミステリ文庫)