表紙のイラストがきっかけで読んだ小説

 江口寿史という漫画家がいて、かつては週刊少年ジャンプでギャグ漫画を連載しており、大変人気があったと記憶しております。その後、どうなったのか、今でもどこかで連載しているのかは全く知りません。しかし、江口さんの場合は、今では漫画家としてよりも、イラストレーターとして評価が高いようで、イラスト作品はいろんな媒体で時々見かけます。

 そんな江口さんのインスタのアカウントを見ておりましたら、江口さんが過去に手掛けた文庫本の表紙のイラストが幾つかアップされていました。調べてみましたら、サラ・パレツキーというアメリカの女性作家が書いた女性の私立探偵を主人公にしたシリーズでした。どんな内容なのか興味が湧いたので、シリーズ第1作目の『サマータイム・ブルース』(原題:INDEMNITY ONLY)を読んでみました。この小説が書かれたのは1982年なので(日本語版が出たのは1985年ですが)、今から37年も前です。当時はスマホも無ければインターネットも無い時代です。探偵小説とか推理小説、あるいはスパイ小説は特にハイテク機器を小道具として使うことが多いので、37年も前に書かれた小説というのは、その点において面白さが見劣りしてしまうのではないかと、はじめは思っていました。しかし読んでみると、確かにハイテク機器は出てきませんが、古くさくて時代遅れな感じは全く無くて、十分に面白かったです。

 ただ、本を買ってみて分かったのですが、この本は2010年にカバーデザインを新しくした新版であり、江口さんが表紙を描いたのは旧版の方なのでした。確かに、イラストのタッチが江口さんとは全然違います。これはこれで魅力的なイラストだとは思うのですが、小説の中で主人公の女性探偵が使う拳銃はスミス&ウエッソンの38口径のリボルバー(回転式)なのに、表紙のイラストで手にしているのはセミオートの拳銃(SIGまたはグロックっぽい)であることに少しだけ違和感がありました。主人公が敢えてスミス&ウエッソンのリボルバーを選択した事には、それなりの理由があることが文脈から読み取れ、それが彼女の人物像を構成する重要な要素のひとつになっているので、表紙のイラストにおいてもそういう細部にまでこだわって欲しかったです。