キップの管理

 母と一緒に名古屋駅から新幹線ひかりに乗車し、座席について暫くすると隣の席で母がカバンの中に手を入れてゴソゴソと何かを捜していました。「どうしたの?」と尋ねるとキップ(乗車券と特急券)が行方不明とのこと。まだ乗車して何分も経っていないのに、いきなりのトラブル発生に「やれやれ」と思いつつも一緒に捜していいると、見つかりました。この先の道中、また同じようなことが起こることは想像に難くないので、その後の都内での乗り換えや帰りの新幹線のキップ等は全て私が管理し、改札の直前で母に渡して、改札を通過したらすぐに私が回収するというシステムにしました。

 帰りの新幹線ひかりに乗車し、ゆったりと座席に体を預けて寛いでいると、前の席に座った男性が何やらゴソゴソと捜しているようでした。その男性は少し長めの白髪、白い口髭、和服姿で、年齢は70歳前後と思われ、お茶とかお花の世界の偉い人のような雰囲気でした。その後、その白髪の老人は車掌を呼びつけて何やら説明し、車掌がおもむろに床に四つん這いになったかと思うと座席の下を捜しはじめました。車掌とのやり取りから漏れ聞こえてくる言葉の端々から、どうやらキップが見当たらないようでした。そして車掌が去って暫くしてから、窓際の壁と座席の間の暗くて奥まった所にキップが落ちているのをうちの母が発見し、白髪の老人に渡して一件落着となりました。

 それにしても、年を取るとキップをなくし易くなるものなんでしょうかね。キップを発券するシステムや改札機のメカニズムなんかはハイテク化しているとは言うものの、薄っぺらい紙キレを肌身離さず持っていなければならないという方法自体は大昔と何ら変わっていません。チケットレスのシステムが登場してから何年か経ちましたが、利用しているのは主に若い世代や中堅世代であって、高齢者は旧態依然とした「キップ肌身離さず方式」しか頼るものが無いのが実情のようです。特に、今回の帰りの新幹線で前の席に座っていた老人は和服で、洋服のようなポケットが無いのでキップの管理には向いていないように思えます。チケットホルダーにキップを入れて首から掛ければ紛失することも無いのでしょうが、海外旅行ならまだしも、新幹線でこれをやっていると野暮ったいですし。事前に手続きをしておけば、乗車当日は指紋認証とか顔認証で改札を通過出来るようになればいいのですが、そういった技術が一般的に取り入れられるようになるのはまだまだ先なんでしょうね。