『伴走者』

伴走者

伴走者

 糸井重里さんは、他の人の本の帯に推薦文を書くことも多くて、そういった本を一堂に集めて販売する催しが先日東京で行われたサイン会場で行われていました。サイン会が始まるまでに時間があったので、そこに並んでいる本を眺めていて、せっかくだから何か1冊買うことにしました。何でも良かったのですが、最も最近出版されたもので、ほぼ日のサイトでもイチオシだった『伴走者』を選びました。

 この本には二つの小説がおさめられていて、いずれもパラスポーツ(障害者のスポーツ)を扱ったもの。一つ目はマラソンで、ピークを過ぎつつあるマラソンランナーが元サッカー選手で事故により視力を失ったアスリートとともに伴走者としてマラソンでメダルを目指す話。もう一つは、かつては最速レーサーと言われたスキーヤーが、全盲の女子高生のスキーヤーとともにアルペンスキーで伴走者として入賞を目指すという話。
 どちらの話も読み応えがありました。私自身はマラソンの方が興味があるので、読む前は一話目の方が面白いだろうなと予想していたのですが、二話目の元最速スキーヤー全盲の女子高生が練習をしているうちに次第に芽生えていく淡い恋心のようなものに激しく感情移入してしまいました。

 どちらの話も、読者が望むような結末にはなりません。こういうエンディングは、例えばハリウッド映画ではまずありえないかもしれません。しかし、表面的にはハッピーエンディングでなくとも、そうでないからこそ浮かび上がってくる感慨があり、そういったものをこの作者は見事に描いているな、と感じました。もう一度読み返してみたい小説です。