BAR

 旅先で、その街のBARへふらっと入ってみる、というのをずっと思い描いてはいたのですが、これまではなかなか時間が取れなかったりして、実現することが出来ないでいました。
 しかし、今回の長野への旅ではやっと念願が叶いました。ひとくちにバーと言っても色んな種類がありますが、私が行きたいのはワイワイガヤガヤと賑やかではない静かなバーで、食べ物がたくさんあるダイニングバーではなく、ウイスキーとカクテルがメインのオーセンティックなバーです。そんなバーが長野駅周辺にないだろうかとネットで検索しました。そして、見つかった幾つかのお店の中から、宿泊先のホテルから歩いて数分の距離にあるバーを選び、行ってみることにしました。

 お店のドアを開けて中へ入ってみると、客は一人もおらず、お店の人も居ないようでしたが、すぐに奥から店主らしき男性が出てきて、このお店はウイスキー中心の、禁煙のバーである旨を説明しました。それに関して特に不満は無いのでカウンター席に腰を下ろしました。夏の暑い時期だし、ハバナマティーニでも飲もうかなと思って注文すると、「えっ?何ですかそれ?どうやって作るんですか?」と言われてしまいました。説明するのもめんどくさいのでジントニックに注文を変えたら「ジンと炭酸水を混ぜるだけのやつですよね」と訊いてきました。大抵のジントニックはそこにライムを添えますが、このお店にはそういうフルーツは置いていないらしいのです。どうやらこのバーのマスターはカクテルには全く興味が無くて、作りたくないらしいのです。確かに、お店に入った時点で「ウイスキー中心のバーです」という説明は受けましたが、その言い方は「ウイスキー中心だけど、カクテルも少しは出せますよ」というニュアンスに感じられたのですが、実のところはほぼ全面的にカクテルを拒否しているようです。
 まぁ、それはそれでお店の方針ですから、客の方は嫌なら出て行けばいいだけの話なのですが、カクテルは無しってことは、「ウイスキー中心」と言えば聞こえは良いけど、ボトルに入ったウイスキーをグラスに注いで出してるだけじゃねぇかよ、とも思いました。その時点で何となく不愉快な気分になってきました。私の後から入ってきた男性客は、やはりその人もジントニックを飲んで、2杯目を注文する前に帰ってしまいました。ただ、そのお店にはちゃんとメニューがあって(一般的にバーにはメニューが無いことが多い)、その品揃えの多さには正直驚かされました。私が好きなラフロイグという銘柄にしても、他の店だと10年は置いてあったとしても、あとはせいぜいクォーターカスクぐらいなのに対して、このお店には今まで聞いたことがないようなラフロイグが数種類置いてあるのでした。その中からその日に届いたばかりのラフロイグの19年をストレートで頂きました。

 このお店のマスターの物の言い方にはカチンとくるものがありますが、ここ以外では滅多に飲めないようなウイスキーもたくさんあるので、ちょっと悔しいけど、長野へ来た折にはまた寄ってみたいです。