熱中症

  先日、熱中症の予防に関する専門家によるお話を聴く機会がありました。熱中症という言葉は、近年では初夏から残暑厳しい9月頃まではニュースや気象情報のコーナーで耳にしない日は無いほどです。しかし、そうやって得たものはいずれも断片的な知識に過ぎず、「だいたいこういうことに注意しないといけないんだな」ぐらいのレベルに留まっていました。今回の専門家によるお話では、多くの論文や実際に起きた熱中症の事例を数多く引用し、分かりやすく説明してもらえたので理解も深まり、これまでに知っていたことも含めて、体系的に学び直すことが出来ました。

 熱中症予防のポイントは幾つかありますが、まず大切なのは身体の深部の温度はなかなか下がらないということ。例えば暑い環境で体を動かした後、休憩に入ると身体の表面(皮膚)の温度は徐々に下がっていきますが、深部の温度は下がるどころかその後も上がり続けることがあります。実際に、休憩中に状態が悪化したり、帰宅途中や家に帰ってから深刻な状態になることが少なくないようです。

 熱中症においては「年齢」も重要なファクターです。例えば、若者と高齢者が日陰と日向で軽い運動(踏み台昇降)をした場合の体温(この場合は直腸温、つまり身体の内側の温度)を測定した実験によると、日陰で運動している時には若者も高齢者も体温の上昇具合に大きな違いはありませんでした。しかし、日向で運動すると、若者はそれでも体温の上昇を最小限に留めていましたが、高齢者の体温はグングン上昇していきました。これは何故かと言うと、若者は日向の暑い環境下でもちゃんと汗が出るので体温の上昇を抑制出来ますが、高齢者は汗をかく能力が低下しているので体温を下げることが出来ないのでした。運動して体を鍛えている高齢者(例えば毎日10キロ走っているとか)でもやはり同様に汗をかく能力が低下しており、汗に関しては年齢には勝てないので「私は毎日運動しているから大丈夫!」などと過信しないよう気を付けねばなりません。

 男性と女性では熱中症の発生件数が大きく違います。一般的に男性の方が女性よりなりやすく、全体でみると男性:女性=2:1ぐらいなのですが、働く世代に限って言えば、男性:女性=10:1ぐらいで、圧倒的に男性の方が熱中症になりやすいのだそうです。その理由は明確ではありませんが、おそらくは男性の方が基礎代謝が大きく、発汗量が多いことに加えて、限界まで頑張ってしまうからではないかと今回の専門家の講師は言っていました。女性は「生命を産んで次世代に繋げていくと」いう重要な生物学的役割を担っておりますので、生命が危機に晒されると限界が来る手前で本能的にストップがかかり、無理をしないようになっています。ところが男性にはそういうストッパーが備わっていないので、ついつい限界を超えてしまうことがあるのだそうです。女性が「もうダメ」と言っても、実際にはまだ多少の余裕が残っていますが、男性の「もうダメ」は本当にダメ、あるいは既に手遅れということもありますので注意が必要です。

 

 夏の暑さは年々厳しくなっているようで、過去100年ぐらいの日本の気象記録によると、その間の最高気温の上位9位のうちの半分以上に当たる5つが2018年のものです。つまりは近年になって急激に気温が高くなっているわけで、よく「昔はこんなに暑くなかった」と言われますが、それは気のせいではなく本当に暑くなっているのです。これは日本に限ったことではなく、例えば「比較的涼しい国」というイメージがあるカナダでさえ、熱中症対策は待った無しの緊急課題になっているのだそうです。先日は、フランスで46℃を記録したというニュースがありましたが、日本でも近い将来にそれぐらいになってもおかしくありません。まさか夏の暑さがこんなにも脅威になるとは昔は思ってもいませんでした。