シャインマスカット

 そもそもは桃が始まりでした。東京オリンピックに出場したアメリカのソフトボールチームの監督が福島の桃が美味しいと言ったことが話題になり、そのニュースを繰り返し耳にするうちに「美味しい桃を食べたい」という気持ちが強くなっていきました。どうせなら高価であっても高品質な桃を手に入れたいと思ったので、高級フルーツ店のオンラインショップを見ていると、桃を探していたのにシャインマスカットが目にとまり、桃よりもそちらを食べたくて仕方がなくなってしまいました。そして、金曜日の会社帰りに名古屋のデパ地下にある高級フルーツを扱うお店へ行きました。シャインマスカットは5千円、7千円、1万円の3種類が並んでいました。一応店員の話をきいてみて、少し迷ったのですが、どうせなら一番高いものを買ってみようと決心し、1万円の岡山県産「まるごと皮ごと食べられるシャインマスカット『晴王』」を購入。帰宅して冷やしてから食べてみました。皮ごと食べられる葡萄は初めてで、そんな食べ方をして美味しいのだろうかと思っていたのですが、実際に食べてみると皮が邪魔になったりせず、プリッとした食感が良かったです。そして、凝縮された葡萄独特の甘みが濃厚で、かと言ってくどいことはなく、たいへん美味しゅうございました。

f:id:tsuiteru2772:20210829053238j:plain

 しかし、これに1万円を払うほどの価値があるかどうかは、考え方次第であり、食べる人の価値基準によると思います。こういうシャインマスカットを育てるには特別な栽培環境が必要だろうし、安いものを栽培するよりも人件費が余計にかかったり、間引きするから1本の木から収穫できる房の数は少ないでしょうし、そういった費用を積み上げていくと、結果的に1万円で売らないと採算が取れなくなっているのであって、決してぼったくっているわけではないという生産者側の事情は理解できます。しかし、そこから得られる満足感にそれだけのお金を支払うだけの価値があるかどうかという消費者側の事情はまた別。例えば、3倍の代金を支払ったら3倍以上の満足感を得たいと思うのが消費者の心理ですが、実際には1.5倍の満足感かもしれません。そこだけ見ると代金に見合った満足が得られないからダメだ、そんなものに大枚をはたく価値は無いと考えてしまうかもしれませんが、逆から見ると、1.5倍の美味しさを味わうためには3倍の代金を支払うことがどうしても必要なのかもしれません。これはシャインマスカットに限った話ではなくて、例えばお寿司だって、オバマ大統領も行った銀座の高級店は15分で3万円ほどらしいですが、では回転寿司の3千円の寿司の10倍美味いかというと、たぶん10倍なんてことはないような気がします。食べ物の価格とそこから得られる美味しさ・満足感の関係は単純には計算できないものなのでしょう。