スティーブン・セガール

 私はかつてお酒を飲んで酔っ払ってくると、何故だか「カツラなのか地毛なのかがパッと見ただけで分かってしまう」という特殊能力が目を覚ますことがあって、別のテーブルで飲んだくれている全くの赤の他人を遠くから見ただけで「あ、あいつはカツラだな」と分かってしまうのでした。できることならそいつにツカツカと近寄って行き、楽しく飲んでいる最中の見ず知らずの男の耳元で「おまえ、カツラだろっ!」と大きな声で叫んでやりたい衝動がムクムクと湧き上がってくるのでした。幸い、どんなに酩酊状態であっても最低限の理性が最後の砦となって私を押しとどめるので、下手をしたら警察沙汰に発展しかねない愚かな行為を実際に行動に移すことはこれまでに一度もありません。

 ただ、シラフの状態であっても「これは明らかにカツラだな」と分かってしまう著名人はいるものでして、その分かりやすい例がスティーブン・セガールです。今でこそB級の安っぽい筋書きの映画にしか出番はなくなってしまったとはいえ、かつてはハリウッドを代表するアクションスターとして輝いていた時期もありました。お金だってそれなりに持っているはずだから一般庶民には手が届かないような最先端のカツラとか植毛技術だって選べるはずなのに、そんな彼でさえ私の特殊能力を出すまでもなく、すぐにカツラだと見破られてしまうという事実を鑑みるに、髪というのはただ単に皮膚から毛が生えているように見えても、実際にはその自然さを人工的に模倣するのは21世紀の技術を持ってしてもかなり難しく、裏を返せば、なんてことはない髪でさえ、非常に繊細なバランスを保っているのだなぁと、人体の神秘を感じるのでした。

 どうして突然スティーブン・セガールが出てきたのかというと、ネットの記事に彼の写真がデカデカと出ていたからです。なんでも、彼はロシアの国籍を持っていて、プーチン大統領とも親しく、そういうこともあってロシアを支持する考えを表明したのだとか。映画俳優という人たちは、権力者におもねることが珍しくなく、あのジャッキー・チェンだって、今では北京の犬になり下がってしまった姿を見るのはファンとしては悲しいです。