小学校、中学校、高校のどの年代においても、毎年夏休みになるとたくさん出される宿題の中に読書感想文がありました。今でこそ読書は好きだし、それについて何か書くことも割と好きですが、学生時代は自分の興味があるものを好きなように選ぶことはできず「課題図書」というのが決まっていて、読んでいても「これを読んだら感想文を書かなきゃいけないんだぁ」と思うと読書を楽しむことは出来ませんでした。
しかし、7歳から18歳までの、おそらく人生において人格形成に最も大きな影響を及ぼすであろう時期に、毎年毎年「夏になると読書をする」ということを繰り返していると、その行動様式が脳に刷り込まれ、体に染み込んで、いつの間にか習慣となってしまったのか、学生時代の宿題から解放されて随分と経った今になっても、夏のこの時期に書店の中を歩いていると、普段は読まないような文学作品に自然と手が伸びてしまいます。
そういう心理的な背景のもと、今年の夏、読んでみたのが石川啄木の『ローマ字日記』。これは啄木の日記で、文字通り全編ローマ字で書かれています。しかし、ローマ字では読み難かろうということで、出版社の方で漢字・かなに書き換えたものが本の後半に掲載されいるので、そちらを読みました。
その当時(明治)、欧米の文化に対する憧れや、欧米に追いつきたいという目的からなのか、漢字・かなの使用をやめてローマ字にしようというムーブメントが文学界にあったのは確からしいのですが、それよりも何よりも啄木としてはこの日記を妻に読まれたくないという気持ちがあったからこそローマ字で書いたのだそうです。何故、読まれたくなかったかというと、そこには啄木のダメな部分が赤裸々に綴られていたからです。例えば、当時啄木は妻子を置いて、一人で東京に来て出版社で働いていたのですが、給料が出ると、田舎で貧困にあえいでいる妻子に仕送りもせず、淫売婦にたくさんのお金を使ったり、何だかんだと理由をつけては会社を休んだり、かなり自堕落な日々を送っていたようです。
しかし、啄木が作品として発表した詩に見られる純粋さよりも『ローマ字日記』に書かれている側面の方がむしろ親近感を覚えたりします。それから、東京で同じ下宿屋に住んでいた同郷の親友である金田一京助のバディ感と、彼の啄木に対する献身ぶりに胸を打たれたりしました。
この『ローマ字日記』をきっかけに、私の中ではマイブーム的に啄木への興味が膨れ上がったので、改めて啄木の作品を読んでみたいと思い、地元の大型書店へ行ってみましたが、その店には目当ての本は見当たりませんでした。ならば電子書籍で読んでみようと、iTuneストアで探してみたら、こちらにはありました。しかも驚いたことに代表的な作品は無料でダウンロード出来るようになっていました。とりあえず『一握の砂』と『雲は天才である』をダウンロードしました。生前の啄木はずっと貧困に苦しみ、力を振り絞って作品を生み出していたのに、後世の人々がそういった作品を無料で読めてしまうのは非常に申し訳ない気がします。調べてみたら、芥川龍之介や太宰治の作品も代表的なものは無料になっていました。そちらもいずれ読んでみたいです。
- 作者: 石川啄木,桑原武夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1977/09/16
- メディア: 文庫
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