『極大射程』

極大射程 上 (扶桑社ミステリー)

極大射程 上 (扶桑社ミステリー)

 『ザ・シューター』というアメリカのアクション映画を観たのは数年前でした。海兵隊のスナイパーとしてアフリカでの作戦に加わっていたマーク・ウォルバーグ演じる主人公ボブが、ミッションの途中であるにも拘わらず戦況が急変したことにより突然作戦本部から見捨てられ孤立。何とか帰還するも、仲間を失い、自身も精神的に深く傷ついたため、除隊して山奥で静かな一人暮らしをすることにしました。ある日そこへ軍の関係者だと名乗る人物たちが現れ、ボブに大統領暗殺計画を阻止するために力を貸して欲しいと申し出るのですが、実はこれはワナで・・・、みたいなストーリーで、さほど面白いとは感じず、点数をつけるとしたら70点ぐらい。

 その映画を観てから何年かが過ぎてから、映画『ザ・シューター』の原作となった小説があり、実はそっちの方はとても面白いらしい、というウワサを耳にしました。アクション小説は大好きなので、騙されたと思ってその映画の原作である小説『極大射程』を読んでみたのですが、これがメチャメチャ面白かったです。点数を付けるとしたら98点ぐらいかな。物語の前半で細かい伏線をたくさん散りばめておいて、それを綺麗に回収していき、ちゃんと最後のオチに結びつけているところは素晴らしくて、アクション小説でありながらミステリーとしても完成度の高い出来栄えとなっており、実際のところ「このミステリーがすごい」(通称このミス)の2000年の海外小説部門で第1位に選出されたのでした。

 この小説を読んでから、あらためて映画『ザ・シューター』を観てみましたところ、1回目に観た時よりも面白く感じました。それは多分、原作を読んだことにより物語の背景を理解していたから映画におけるストーリー展開をフォロー出来たからだと思います。原作の小説は上下巻で900ページほどの長編なのですが、これを2時間の映画に収めようとするのは無理があり、どうしても説明不足になってしまい、映画の中でワルイ奴らがなぜその犯行を企てたのか、どんな利害関係があるのかがイマイチ分からなくて、それが私の評価では70点となってしまった大きな理由のひとつだったことがよく理解できました。

 映画と小説の両方にライフル射撃に関する描写が、特に小説の方にたくさんあります。ライフルによる狙撃というと、スコープ(照準器)を覗いて十時線が交わっている点を目標に合わせて引き金を引く、だけかと思っていたのですが、実際はそんなに単純な話ではありません。まず、どんな状況であろうと必ず重力の影響は受けます。1マイル(1,600m)先のターゲットを狙うとなると弾丸が音速で飛んでも数秒かかり、その間に重力に引かれて弾丸は相当落下します。そして湿度や空気中のチリによっても弾道は影響を受けますし、長距離の射撃となると地球が平らではなく曲面であることも影響しますし、更に驚いたことに長距離では地球の自転の影響も受けるのだそうです。これらを瞬時に判断して補正をかけた上で引き金を引き、ターゲットに着弾されることが出来るのが優秀なスナイパーなのだそうです。このあたりの理論はとても興味深いものがあります。

 今回のこの作品『ザ・シューター』はテレビドラマ化され、ネットフリックス等の動画配信サイトでシーズン2まで観ることが出来るそうですし、シーズン1のDVDが2月7日にリリースされるそうです。テレビドラマバージョンは原作や映画とはまた違うストーリー展開のようですが、こちらも是非観てみたいです。