働かないアリに意義がある

 

 巣を作って集団で生活する昆虫(アリとか蜂とか)の中には働いているように見えて実は働いていないものが割とたくさんいる、ということは何かの本で読んだりテレビの番組で見たことはあったものの、何故そのようになっているのかについては知らず、私にとっては長い間ずっと謎でした。そこで見かけたのが『働かないアリに意義がある』という本で、タイトルを見ただけで買って読み始めました。それによると、昆虫の社会が司令系統なしにうまくやっていくためにはメンバーの間に様々な個性が必要で、個性があるから必要な時に必要な数を必要な仕事に配置することが可能になっているのだと。ここでいう「個性」とは能力の高さを求めているのではなく、仕事をすぐにやるやつ、なかなかやらないやつ、性能のいいやつ、悪いやつ、といったように優れたものだけでなく、劣ったものも混じっていることが大事なのだそうです。性能の良い規格品の個体だけで構成されているコロニーは決まりきった仕事だけをこなす場合には高い効率を示すのでしょうけど、いつ何が起こるか分からない刻々と変わる状況に対応して集団を動かしていくためには、様々な状況に対応可能な一種の「余力」が必要で、その余力として存在するのが「働かないアリ」なのだそうです。そうであったからこそ、自然界で起こる様々な危機を乗り越えて今日まで生きながらえてきたのであって、そうでなければとっくに淘汰されていたはず。翻って人間社会を見てみると、昆虫の社会との共通点はいくつもあって、狭い範囲で短期的な局面では、能力が高くてひたすら働き続ける人が多い方が成果は出るのでしょうけど、長いスパンで見ると、色んな個性を内包している会社、社会、国家の方が予想もしなかったような危機に直面した場合にも生き延びる確率が高いように思えます。