『貧乏の神様』

貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記

貧乏の神様 芥川賞作家困窮生活記

 芥川賞作家の柳美里さんの『貧乏の神様』を読みました。柳美里さんは、勿論名前は存じ上げていましたが、作品を読んだことはありませんでした。というか「柳美里」という名前を何と読むのかも知りませんでした(「ゆうみり」と読みます)。新聞や雑誌の書評欄で彼女の作品が取り上げられているのをサラッと読んで「ふ〜ん、そういう小説なんだぁ」と微かな興味を瞬間的に抱くことはあっても、なかなか書店で手に取ってみて購入するという段階までには至りませんでした。このままずっとそういう状況が続いて、遂に1冊も読むことが無いのかもな、と思っていましたら先日、新聞の広告でこの『貧乏の神様』のことを知り、大変興味を持ったので買ってみました。柳美里さんがコラムを連載していた月刊『創』の原稿料未払いの顛末を描いたドキュメント。柳さんはTVにもほとんで出ず、講演等もしないため、収入源は執筆による原稿料が主たるものなのですが、その原稿料が約束通り支払われなくなり、生活は段々と困窮していきます。しかし、根負けしないで戦い続ける柳さんの力強い姿に感銘を受けました。

 考えてみれば、芥川賞は年2回選考され、中には該当者無しという回もありますが、一度に複数の作家が受賞することもあり、毎年何人かの新しい「芥川賞作家」が誕生していることになります。しかし、その中で今でも活躍している人が果たして何人いるのか?割と本好きで、書店に足を運ぶことも多い私ですが、芥川賞直木賞を受賞した後も順風満帆に執筆活動を続けている人なんてほんの数人しか思い浮かべることが出来ません。輝かしいデビューを飾ったものの、その後はパッとせず、やがては消えていく人が大半なのでしょう。村上春樹東野圭吾のように本を並べとけばそれだけでどんどん売れるような作家はほんの一握りで、あとは生活していくのもやっとというのが実情なのかもしれません。

 柳美里さんのこの本にも昔の作家が(割と有名な作家でさえ)原稿料の前借りをしたエピソードが紹介されていましたが、作家というのはそもそもあまり儲からない職業なのかもしれません。そしてそこへ更にいろんな状況が重なって、現代はかつて無いほどの「本が売れない時代」と言われ、出版業界は斜陽産業の最たるものとなるまでに落ちぶれてしまいました。ネットの普及で様々なコンテンツが無料で読めたりすることも本や雑誌が売れない原因のひとつかもしれません。このままこの状況が続いていくと、出版社がバタバタと倒産して、本の数が極端に少なくなってしまうのでしょうか。これは他の先進国でも同様の現象なのかなぁ?それにうまく対応している国もあるんだろうか?