ベーシスト

 通勤で利用している電車の岐阜駅の前の通路には、以前は時々「ストリートミュージシャン」的な人が演奏していることがありました。しかし、暫く前からそういったパフォーマンスを禁止する表示が貼られて以降は全く見かけなくなりました。
 その「パフォーマンス禁止」のエリアから少し離れたところで、一応そのあたりも「禁止エリア」に含まれるんじゃないかと思うのですが、そんなことには構わず、一人の若い男性が楽器を演奏していました。以前のブログにも少し書きましたが、大都市ならいざ知らず、こんな田舎の駅前で演奏しているのは才能のかけらも無い人たちばかりで、足を止めて耳を傾けるだけの価値のある演奏はほぼ無いのですが、今回の演奏は、なかなかやるな、と心に届く何かがありましたので、珍しく足を止めて暫く聞き入ってしまいました。演奏していたのは地元の高校3年生(と書かれた紙が表示されていました)で、ベースを速いテンポで弾きまくっていました。一般的に、バンドにおいて中心となるのはヴォーカルとかギターであって、ベースはあまり目立たなくて、ベースの音だけで成り立つ演奏は少なく、それどころか曲によっては別にベースの音が無くったっていいんじゃないかと思うことさえあります。だからこそ、こういったベースの存在感が前面に押し出された演奏というのは珍しく、それだけで思わず立ち止まって聴いてしまいます。単に珍しいだけでなく、この高校3年生のテクニックはハイレベルでした。これはなかなかのものだなぁ、という驚きと感動、これからも頑張って欲しいという思いもあったので、財布を開いてお金を取り出し、演奏者の横に置いてある「募金箱」風の容器にいくばくかのお金を入れさせてもらいました。その金額が彼にとっては予想外に多かったのか、彼は私に手を差し出しました。私も手を出して握手をすると、青年はもう片方の手も出し、私の右手を包みこむようにして、軽くお辞儀をしながらありがとうございますと言いました。私の足を止めさせ、財布まで開かせたこのベーシスト君、今後も経験を積んで腕を磨いていって欲しいものです。