悪いババアの見分け方

 しばらく前のある日の会社帰りに名古屋の駅の改札の近くで「ちょっと、すいません・・・」と後ろから声を掛けられました。振り向くと、そこには小柄な老婆が立ってニコリと微笑んでいました。その老婆が言うには、知り合いからすぐに来るように言われて出てきたのだけど、駅に着いたら財布を持ってくるのを忘れたことに気がついた。悪いんだけど乗車券を買う730円を貸してもらえないだろうか、とのこと。この「母さん助けて詐欺」の逆バージョンみたいなものは、所謂「寸借詐欺」というもので、財布を忘れたりなくしたりして手持ちの金が無いので交通費を貸してくれ、と言って少額の金を騙し取る手口です。借りたお金は後で送るから住所と名前をおしえてくれと言われることも多いそうで、私も言われました。但し、お金が送られてくることは絶対にありませんが。これが詐欺だと気がついた私は、今小銭を持ってないし急いでいるので、と言ってその場を後にしました。その老婆は、中に何か入ってパンパンになった大きな紙袋をふたつ、両手に下げていましたが、何だかちょっとわざとらしい感じがして、詐欺の小道具的に見えましたし、普通、駅に来てから財布を忘れたことに気が付き、でも早く行かなきゃならないのに、どうしよう、となったら大抵の人は焦って取り乱すのだと思うのですが、その老婆にはそういった切迫感のようなものが一切感じられないところに違和感があり、すぐに嘘だと見抜きました。
 ただ、不思議なのは、そういう老婆を見ると、例えば自分の母親だとか、亡くなった祖母の姿を重ねてしまい、困っているんだったら助けてあげたい、という気持ちに一瞬だけど確かになったことでした。よく、オレオレ詐欺で自分の息子や孫を騙る男に大金を巻き上げられた、というニュースをテレビなどで見て、これだけオレオレ詐欺がたくさん発生して、その手口は大体似たようなパターンなのに、なんで騙されるんだろう、自分だったらそんなものに絶対に騙されない、と思っている人は多いかもしれませんが、いざ自分がそういう立場(詐欺で騙される対象)になると、意外と簡単に騙されてしまうものなのかもしれないな、と思いました。
 
 そして昨日、岐阜市の繁華街を歩いていると、前方から歩いてきたバアさんに「ねえ、ちょっとちょっと」と呼び止められました。そのバアさんが言うには、洞戸(ほらど:岐阜県内にある村)まで帰るバス代が無いので、この哀れなオバアに200円めぐんでくれないか、とのこと。これも寸借詐欺であることはバレバレでしたので、いやぁ私も財布を持ってくるの忘れちゃって、とか適当なことを言って、バアさんの要求を拒否しました。それにしても、まさか短期間に2回も寸借詐欺のターゲットになるとは思ってもいませんでした。私は騙されやすい外見なのかな? 私が歩いてくるのを見たババア詐欺師は「あ、カモが来た!」とか思っているのか?

 もしかしたら意外とあまり知られていないかもしれませんが、他人にお金などをめぐんでもらったり、物乞いをするのは法律的には違法行為で、逮捕され処罰される対象となります。その辺は詐欺師は知っているので、「お金ちょうだい」ではなくて、「財布を忘れたから貸して」とあくまで「貸してもうら」という形にするわけです(絶対に返さないけど)。

 寸借詐欺の被害金額は数百円から千円とか二千円とかが多いそうで、後になって「騙された!」と気が付いても、警察に被害届を出したり、警察署へわざわざ行って調書を取ってもらったり、といったことに要する手間や時間を考えると、そちらの方がコストが高かったりするので、悔しいけど警察には届けないことが多いそうです。
 
 駅で730円を貸してくれと言われた場所は、平日は毎日通るのですが、あの寸借詐欺師の老婆は、あれから一度も見かけません。捕まらないように場所を変えているのかな。今度見かけたらスマホで撮影して警察に突き出してやろうか。

 今回、このような寸借詐欺を行う老人に遭遇し、このくらいの歳になると日々の生活のためのお金が不足したとしても、働く場所はまず無いから大変なんだろうな、という同情心はありますけど、だからといって犯罪行為が許されるわけではありません。生活保護等の行政からの支援があるのだから、まずは役所等に相談してみるべき。