『15時17分、パリ行き』

 『15時17分、パリ行き』をDVDで観ました。監督はクリント・イーストウッド。彼が監督した作品で、これまでに観たことがあるのは、2004年の『ミリオンダラー・ベイビー』と、つい何年か前の『アメリカン・スナイパー』。どちらもハリウッド映画にありがちな派手さや、ハッピーエンドでメデタシメデタシといったお気軽のワンパターンな展開の映画とは一線を画す作品で、社会に対して(世界中の映画鑑賞者に対してではなく、明らかにアメリカ社会に対して)何かを問いかけ、映画から伝わってきた何かをじっくりと考えることを求めているかのような作品でした。

 アメリカの軍隊に属する幼馴染の3人が休暇を利用してヨーロッパへ旅行します。その旅行の終盤、パリへ向かう列車の中で偶然遭遇した無差別テロに果敢に立ち向かう、というのが物語の核にあります。しかし、こテロリストとの挌闘シーンは時間的には極わずかで、物語の大部分は3人の出会い、それぞれの家族の中での問題、軍に入ってからの苦労、などに費やされています。こういう一見本筋とは関係無いようなシーンというのは往々にして退屈に感じるもので、「早く戦闘シーンをやってくれよ」と思ったりしがちなのですが、このイーストウッドの作品に関しては、3人の若者の日常を淡々と映しているシーンも何故かじっと見入ってしまいました。

 この物語は実話に基づいていて、ほぼ事実通りだということは知っていましたが、驚いたのは、実際にテロリストに立ち向かった3人が映画の主役として起用され、本人の役として出演していることでした。これはまあ、リアリティを出すための手段だったのでしょうけど、決して名演技ではないにせよ、サマになっているあたりはスゴイなぁ(勿論、演技の指導は徹底して行われたのでしょうけれど)。
 その後の調べによりますと、主役の3人だけでなく他の登場人物も、犯人以外は全て本人を起用しているそうです。無差別テロを未然に防いだことによってこの3人のアメリカ人はフランスから表彰されてフランスの大統領から勲章を授与されるのですが、ここでも当時フランスの大統領であったオランド氏本人が演じていました。

 映画の中で、3人のうち2人はイタリアからヨーロッパへ入り、もう1人はドイツから入り、アムステルダムで合流して、次にパリへ行こうか、どうしようかと迷っているシーンがありました。迷っている理由としては、アムステルダムなどの現地の人や他の旅行者に聞いてみても誰ひとりとしてパリの事を良く言う人がいなかったからでした。かつては憧れの場所であったパリも、今ではテロが発生したり、犯罪が多くて治安は悪かったりして、魅力的な街ではなくなってしまったのかな。