傷の治療法

 

傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)

傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学 (光文社新書)

 

  『傷はぜったい消毒するな』という本を読みました。著者は、暫く前に読んだ『炭水化物が人類を滅ぼす』という糖質制限に関する本の著者と同じ医師の夏井睦先生で、出版されたのは今回読んだ『傷はぜったい消毒するな』の方が先です。

 皮膚に傷が出来ると、例えば子供が屋外で遊んでいて転んで膝を擦りむいて血が出たりすると、まず傷口を流水で洗ってから、オキシドールなどで消毒し、ガーゼを当ててその上から絆創膏で固定するのが一般的な治療法かと思います。しかし夏井医師によると、消毒するのもガーゼを当てることも傷が治るのを妨げているらしいのです。消毒というのは細菌を殺すことですが、どのように殺すのかというと、消毒液が細菌の中のタンパク質を変性させることによって死に至らしめます。ところが、このタンパク質の変性は細菌のみならず、傷口の皮膚の細胞でも起こるので、皮膚の細胞まで死んでしまって傷の修復が妨げられてしまいます。また、傷が出来ると透明な液体みたいなものが滲み出てきます。この液体は皮膚の細胞が傷口を修復するのを促進する働きがありますが、ガーゼを当てるとこの液体が吸い取られてしまうので、これまた傷が治るのを妨げられるわけです。では、どうすればいいのかというと、傷口を流水でよく洗ってから、白色ワセリンを塗り、乾燥を防ぐ被覆・保護材(プラスモイストという商品があるらしいです)で傷口を覆うか、無ければ食品用のラップで覆っても良いそうです。それを1日に2、3回取り替えるという治療法で、ちょっとした傷なら早く綺麗に治るのだそうです(注:傷が化膿している場合は医療機関で治療してもらうように)。これを湿潤治療と言うらしいのですが、個人で開業している医師の中にはこの治療法を取り入れるところが増えてきましたが、大きな総合病院の外科ではこの治療法は採用されておらず、相変わらず消毒&ガーゼなのだそうです。湿潤治療に切り替えるということは、大きな病院で、これまでずっと消毒&ガーゼという治療を施してきた偉い先生方を否定することになるので、簡単には変更出来ないという事情があるらしいのです。患者のことより医師のメンツの方が重要ということなのでしょうね。

 傷の治療法を入り口にして、人体の科学、生命の科学みたいなところまで分かりやすく説明されておりましたし、『炭水化物が人類を滅ぼす』と同様に著者の大胆な仮説を論じている部分もあり、とても面白い内容でした。夏井氏の本が出たらまた読んでみたいです。