スジャータ

 買い物をしてレジで精算をする際などは、レジ係の店員と客が数十センチという短い距離で向かい合う形になります。店員は品物のバーコードを読み取ったりするなどやるべきことがあるのですが、客側は特にやることはありません。そういった時に私は店員の左胸あたりに付いている名札に書かれている名前に目をやることが割とよくあります。へぇ〜、珍しい名前だなと思うこともあれば、読み方が分からない漢字が書かれていることもありますし、逆に平仮名で書いてある場合にどんな漢字なのか思いつかないような珍しい名前に出会うこともあります。また、最近では技能実習生として来日してコンビニなどでバイトしている外国人が増えてきたので、名札に書かれている名前のバリエーションがかなり増えてきました。

 そんなある日、名古屋某所のマックへ入りました。レジに立っていたのはアジアの、たぶんインドとかネパールあたりから来たと思われる外観の小柄な若い女性でした。注文をしながら、いつもの癖でその店員の左胸にぶら下がっている名札を見ると「スジャータ」と書いてありました。スジャータと言えば、お釈迦様が悟りを開く直前に乳粥を渡した娘の名前と同じではないか!、と私は驚きました。お釈迦様は、生死の境をさまようような激しい苦行を6年にも渡って行いましたが、悟りに至ることはありませんでした。そこへスジャータという名の村娘がやって来てお釈迦様に乳粥を渡し、それを食したお釈迦様は川で沐浴をして心身共にリフレッシュして、近くの森の中の菩提樹の下で瞑想している時に悟りを開いたと言い伝えられています。つまりはスジャータが渡した乳粥がお釈迦様が悟りを開くきっかけを与えたのでありました。そのような2,500年前に起こった仏教の、あるいは人類の歴史の重要な出来事に関与する人物と同じ名前を持つ人がマックのレジに立って人々にハンバーガーを与えているとは、その落差が何とも可笑しく感じられました。でも、このマックのスジャータ嬢から受け取ったチーズバーガーを食べてマックシェイクを飲んだ後に、何か悟りを開くような精神的な境地に至る人がいるかもしれないですけどね(ちなみに、私にはそのようなことは起こりませんでした)。