贅沢

 昨日と同様、暑い日となりました。帰宅して部屋のエアコンの吹き出し口の前に立ち、出てくる涼しい風を浴びると、涼しくて気持ち良いと感じるよりも先に、何だかとても「贅沢だなぁ」という気分になったのは自分でも意外でした。そしてそこで思い出したのが、随分と昔に何かの本で読んだエピソードでした。そこには次のようなことが書かれていました。林家木久蔵(現在の木久扇)は、夏には靴下をお茶の缶の空缶に入れ、その缶を冷蔵庫に入れて冷やしておくのだそうです。そして暑い日によく冷えた靴下を取り出して履くと「ああ、何と贅沢なんでしょ」と幸せな気分になるのだと。それを読んだ当時は、それぐらいのことを贅沢と感じたりするものだろうか、と疑問に思い木久蔵の心境が理解できなかったのですが、今ではその気持ちが分かるような気がします。若い頃は、あれも欲しいこれも欲しい、という物欲が旺盛でしたが、そういったものが段々と薄れていき、気が付けば涼しい風に当たるだけで贅沢だと感じられるようになっていました。これは決して私が何かを悟ったわけではなく、ただ単に加齢とともにギラギラした欲望が消えていったに過ぎないのであろうと考えると、寂しい気持ちも少しありますが、欲しいものが手に入らなくて苦しい思いをするよりはマシだと考えるようにしています。