ピアノ三重奏曲第7番『大公』

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第7番「大公」

 音楽の素晴らしさを文字で表現するのは、とても難しいことだと思います。小説やエッセイやブログなどである特定の曲が描写されている場面に出会うことがあり、そこに書いてある文字の意味は当然理解できるのですが、それが心にまで響いてくることはあまりありません。それは、言葉がその音楽を表現しきれていないか、あるいはあまりにも高度で専門的な視点から述べられており門外漢には排他的であるからです。しかしながら、私が大好きな作家の村上春樹さんは、このあたりの表現が実に秀逸で、全く聴いたことがない曲について書かれた文章を読んでも、まるで実際に自分がそれを聴いているかの如くその旋律を味わい、その曲が持つバイブレーションを感じることができます。そういった例のひとつが、このベートーヴェンピアノ三重奏曲第7番『大公』です。この曲の第2楽章が、小説『海辺のカフカ』の下巻で描写されています。小説を読んですぐにCDを買って聴いてみました。『運命』とか『第9』のようにポピュラーではなく、派手さやダイナミックさはありませんが、落ち着いた中にも、凛とした品格の感じられる実に良い曲で、私は大好きです。