『呑めば、都』

呑めば、都―居酒屋の東京

呑めば、都―居酒屋の東京

 この『呑めば、都』の著者のマイク・モラスキー氏は、セントルイス出身のアメリカ人で、現在は一橋大学社会学研究科の教授で、戦後の日本文化を専門に研究されている方です。
 モラスキー教授は、日本酒と赤提灯系の居酒屋が大好きで、例えば健康診断の問診票のお酒の量に関する項目では「a)飲まない、b)1〜2杯、c)3杯以上」という回答の選択肢のc)の「杯」という字にバツ印を付けて「軒」と書き足して「3軒以上」としてしまうほどの大酒飲みなのだそうです。この本では東京およびその近郊の戦後の闇市に由来する飲み屋街を自ら飲み歩いて、その魅力を語っています。

 さすがに大学教授だけあってフィールドワークのボリュームがすごいですし、そこで収集した情報に対する考察も深いです。かといって学術論文のような堅苦しいものではなく、ユーモアたっぷりで読みやすいです。この本に登場する日本酒の種類も幅広く、また好きな肴もツウ好みのものが多くて、昨日今日の酒飲みではない年季の入ったところが感じられます。

 私はこれまで、赤提灯系の居酒屋というものに対してはあまり良いイメージは持っておらず、そういうお店に入ったこともありませんでした。赤提灯は、洗練された都会のバーとは対極にある存在で全く眼中に無かったのですが、この本を読んで俄然興味が湧いてきました。この1冊の本によって、私の中でパラダイムが大きくガラッと変わって、新たな価値観が形成されてしまった感じです。
 こういう世界があることを知ったこと自体は嬉しいのですが、問題は私はお酒が弱いのに興味を抱いて強く惹かれてしまったということです。あまり深入りしない範囲で、こういう世界もちょっと覗いてみたいと思っています。