最近は、ツイッターで誰かが紹介している本を見て「あ、面白そうだな!」と思ってすぐに買って読むというパターンが多いのですが、今回の『サカナとヤクザ』もそういうきっかけで読みました。
著者の鈴木氏は、もともと暴力団関係の専門誌の記者らしく、現在はフリーランスとしてそっち系の雑誌に記事を寄稿しているとのこと。今回は、漁業の現場を取材したり、築地市場ではアルバイトとして実際に働いて「潜入取材」してみたりして、魚の流通にヤクザがどのように絡んでいるかを調査したのでした。その築地の他に三陸のアワビ密漁団、北海道のカニや”黒いダイヤ”ナマコ、千葉の漁港とヤクザの繋がりの歴史、そしてウナギの国際密輸について書かれておりました。それらを通して、漁業というのは品目によっては莫大な金を生み、そこに目を付けたヤクザが商売に参入してくる、という図式を浮かび上がらせておりました。
ヤクザの犯罪、例えば麻薬・武器の密輸に対しては、それは100%悪で、絶対にダメなことだ、と言い切ることが出来ます。しかし、今回のこの本で取り上げられている魚介類の密漁・密輸に関しては、そうやって流通してきたものを最終的には我々が美味しい美味しいと言って食べているところが他の犯罪と決定的に異なる点です。密漁された魚が流通過程で巧妙に正規品に紛れ込んでしまえば、それが違法な品か合法な品かはもう分からなくなってしまいます。具体的な数字は書いてありませんでしたが、スーパーで売っている魚や回転寿司のネタの中に想像しているよりも多くの密漁品が含まれているとのことでした。日本の漁業はこういう不正の上に成り立っているのであり、我々消費者もいわば共犯者なのでありました。
そのような不正が行われないような取り組みは、例えば海保による取り締まりが行政によって行われていますし、暴力団排除条例によって組織が弱体化してきてはいますが、なかなか無くならないのだそうです。
ウナギについては、ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されましたが、この指定自体は法的拘束力は無いので、指定されたからといってウナギの流通が制限されることはありません。現在日本で蒲焼などにして食べられているウナギは、中国などのアジアから輸入したり、稚魚(シラス)を輸入してそれを日本で養殖するものが大部分を占めます。これがワシントン条約で輸出入が禁止されると国際的な取引は禁止されますが、そうなったらまたあの手この手を使ってウナギやシラスを密輸するだけのことでしょう。何故なら日本人はウナギが大好きで、この需要がある限りは莫大な金を生むからです。
ウナギに関しては、未知な領域が多く、この先に研究が進んで卵を孵化させるところから始まる完全養殖が実現すれば状況は改善するかもしれませんが、実用化されるにはまだまだかかりそうです。
魚を食べるのは日本の食文化で、既に日常生活にがっちりと組み込まれているので、それを法律で変えようというのは容易ではありませんが、その一方で「資源保護」という考えもあり悩ましいところです。