権力格差と英語

 暫く前に読んだ『天才!』という本の中に「権力格差」について書かれてある章がありました。権力格差とは、その国の文化の中での「上下関係の厳しさ」のようなもので、国によっていろいろですが、概して礼儀を重んじる国はフレンドリーを重視する国よりも権力格差が大きいと言えます。
 『天才!』の中では、大韓国空が例として取り上げられていました。この航空会社は、かつては墜落などの大きな事故が他国のエアラインよりも桁違いに多く発生していました。この改善を託されたある欧米のコンサル会社が事故原因を詳細に調査したところ、航空機のコクピット内における「権力格差」が根本的な問題であると考えました。つまり、例えば機長が操縦していて、その傍らにいる副操縦士が何か問題に気が付いたとしても、上司である機長に対して、ずけずけと問題点を指摘するのは韓国の文化においては無礼であるため、遠回しな言い方で指摘することになり、その結果適切な対応が出来なくて事故に至るケースが多いということでした。これを改善するためにコンサル会社が真っ先に行ったのが、パイロットを含めた関係者が使う言語をハングル語から英語へ切り替えることでした。言語は単なる記号的なツールではなく文化であり、使用する言語を英語に変えるということは、コクピット内に英語的な文化、英語的なコミュニケーションを持ち込むということになります。これにより、大韓航空が抱えていた権力格差の問題は解消され、今では世界でもトップレベルの安全性を誇るまでになったのだそうです。

 ユニクロ楽天といった日本の企業が「社内の公用語を英語にした」というニュースをきいた時には、単に海外との取引を増やしたり、日本人以外の社員の採用を増やすから公用語を英語にするのかと思っていました。勿論、そういった側面もあるのでしょうが、良くも悪くも日本の文化の中で脈々と伝承されてきている権力格差を極力小さくすることが、少なくともビジネスの世界では避けられない課題になっているのだろうなと感じました。