開高健

 帰りの電車の中で開高健の小説を読んでいると、主人公の日本人男性がパリの場末の酒場で女性に向かって酒に関する蘊蓄を傾けるシーンがありました。そこで男は次のように話します。

「教えてあげよう。これは知っといたほうがいいよ。どの酒でもそうだけど、口に入れたら、歯ぐきへまわしてしみこませるんだ。そこでしばしためらって本質が登場するのを待ち、かつ、眺める。歯ぐきはたいせつなんだよ。鑑定家が酒を飲むところを見てると頬っぺたがコブみたいにブクッとふくれるが、あれはこのためだ。これを、ぶどう酒を”噛む”という。・・・。それとね、うまいパンさえあればぶどう酒にさかなはいらないということ。」

 酒をまさか歯ぐきで味わうなんて、思いもよりませんでした。ワインぐらいのアルコール度数であればそういう飲み方も出来ましょうが、ストレートのウイスキーを歯ぐきへまわしたらヒリヒリしそうなので、いくらか加水した方が良さそうです。ビールは歯ぐきなんかへまわしているよりもとにかく一刻も早く喉へ流し込みたくなりそうです。日本酒なら上手くいきそうなので試してみたいです。

 開高健が早くにお亡くなりになったことは知ってましたが、あらためてウィキペディアで調べてみたら58歳でした。若すぎるなぁ、もっと長生きしてもっとたくさんの作品を遺してほしかったです。彼が晩年の16年間を過ごした茅ヶ崎市開高健記念館というのがあって、そちらへは行ったことが無いのですが、9月26日(日)まで特別展が開催されているらしいので、出来れば期間中にそこを訪れたいのですが、このコロナ禍では難しいかなぁ・・・。