『窓際のスパイ』

窓際のスパイ (ハヤカワ文庫NV)

窓際のスパイ (ハヤカワ文庫NV)

 イギリスのスパイ小説『窓際のスパイ』を読みました。「イギリス」そして「スパイ」とくれば、どうしても007シリーズのジェームズ・ボンドを連想してしまいますが、今回の『窓際のスパイ』に登場するのは007のようなエリートスパイとは真逆の、ヘマをしでかして「ダメ工作員」の烙印を押されて転属されてきたスパイのチームが主人公です。
 日本では、出世コースから外れたサラリーマンのことを随分昔は「窓際族」などと言っていて、そういう意味合いが『窓際のスパイ』というタイトルに込められているようですが、近頃では「窓際族」なんて言葉は使わないので、なんだかちょっとセンスが古いような気がします。ちなみに原題は"SLOW HORSES"、直訳すると「遅い馬」、つまり競走馬としての能力が無い(あるいは無くなった)馬という意味で、こちらの方がピンとくるような気がします。
 ストーリーは、イギリスの極右グループがイスラム系の男性を拉致し、この事件に「窓際のスパイ」達が巻き込まれるのですが、実はその裏にはある陰謀が隠されていて・・・、という内容です。イスラム絡みの事件としては、現実の世の中で起こっていることの方がよっぽどヒドイのですが、話の運び方とか、人物描写が優れているので「さあ、これからどうなっていくんだろう」とワクワクしながらページをめくる手が止まらず、楽しんで読むことが出来ました。
 この本の作者であるミック・ヘロンの著作はいくつかあるようで、本国では有名な章を受賞しているらしいですが、日本語に翻訳されているのはまだこの『窓際のスパイ』だけのようです。早く次回作が読みたくてウズウズしてしまいます。