感情が体に及ぼす影響

 走っている時には、何かを考えていることもありますし、何も考えていないこともあります。考える、というようなレベルではなくて、過去に自分が目にしたこと、味わったこと等の記憶の断片が頭の中にポッと浮かんでは消え、また別の断片が浮かんでは消え、ということが不規則なリズムで起こることもあります。しかしそういった断片のうちのひとつが、例えばそれが何か頭にきたこと、ムカついたことであったりすると、断片的な記憶をきっかけとして、その出来事全体を思い起こしてしまい、当時味わった嫌な気分を、別に誰かに指示されたわけでもないのに、再び味わうことになります。何で自ら進んでわざわざ嫌な気分になるようにしているのか、自分でもバカバカしくなります。

 しかし、走っている時に「腹が立つこと、ムカつくこと」を思い浮かべることにはひとつだけ良い点があります。それは、ムカつくとアドレナリンとかノルアドレナリンとかコルチゾールといったストレスホルモンが分泌され、その影響により血糖値が上がったり、筋肉に素早くエネルギーが供給されたりして、瞬時に疲労感が軽減されることです。ああ、ムカつくと本当にホルモンが分泌されて、こういうふうに体に作用するんだぁ、ということが如実に、まさに手に取るように分かります。逆に「笑えること」を思い浮かべると、体が緩んで力が入らなくなってしまいます。マラソン大会で仮装しているランナーを目にして、それが自分のツボにはまったりすると、体の力が急に抜けてしまい、立て直すのに暫く時間がかかることがあります。

 日常生活の中で、怒ったり、ストレスを感じたり、笑ったりといったことはよくあります。しかし、それはあくまで心の中の出来事であり、身体とは関係無いと思いがちですが、実際にはムカつけばストレスホルモンが、笑ったり、穏やかな気持ちでいればドーパミン等のホルモンが分泌されていて、思っていた以上に身体の奥の方に影響を及ぼしているんだということがランニングを通してよくわかりました。
 走っている時に過去の嫌なことを思い出して腹を立てて、ストレスホルモンが分泌されても、それはすぐに消費されて、嫌なことも忘れてしまうので身体に対するダメージはさほどでもないのでしょう。しかし、例えば会社で何か腹がたつことがあって、怒りの感情がそのあとずっと心の中に留まっていると、ストレスホルモンがずっと分泌され続けて、例えばコルチゾールというホルモンの作用によって血糖値が上がっても運動してエネルギーを消費しているわけではないので身体にとっては大きな負担になり、そういう状態が毎日のように続くと確実に身体が蝕まれていくであろうことは想像に難くありません。単なる感情、心の中だけの問題、と軽視するのではなく、実は身体に強い影響を及ぼしていることを認識し、日常生活の中でも時々立ち止まって自分の心の中を客観的にチェックして、もしそこにストレスホルモンの分泌を促進する感情があったならば、直ちにそれを取り除くよう心がけたいです。