御机下

 何年も前に、町内のかかりつけの医師から他の病院へ紹介状を書いてもらったことがあります。そしてその紹介状が入った封筒の表側には「〇〇先生 御机下」と書かれていました。この「机下」は「きか」と読み、相手を直接の宛先とすることは失礼なので「相手の机の下に差し出す」という意味が込められています。「御机下」は「ごきか」と読みます。本来なら「御」を付ける必要は無いのですが(机に御を付けたら机を敬っていることになるので)、あえて付けるのが慣例のようです。

 また、この他には「御侍史(ごじし)」というのもあって、「侍史」は付き人や秘書の事で、本人に直接差し出すのは失礼なので、秘書の方が受け取ってください、という意味らしいです。

 この「御机下」のような言葉は脇付(わきづけ)というもので、一般社会で使うのは「御中」ぐらいなのですが、日本の医学界ではいくつか使われているようです。
 医学という、いわば科学の先進的な部分を取り扱う分野でありながら、「御机下」や「御侍史」を付けるという古いしきたりというか、「お作法」があるというのは大変興味深いです。

 ここで思い出したのが、映画やドラマなどでイギリスの女王陛下を呼ぶ際に「女王様」とは言わず「Your majesty」と言っているシーンでした。「majesty」は「尊厳、威厳」という意味で、女王陛下に直接呼びかけるのは畏れ多いので、ひとつクッションを置いて「あなたの威厳に対して話させて頂いております」という形にするのだそうです。因みに、王子や王女の場合は「your royal highness」だそうです。ただこれらの呼び方は下の階級が使うものであって、王族同士では「サー」とか「マーム」と言うらしく、めんどくさいのですが、まあ私が女王陛下に謁見することなど絶対に無いので、気にすることもないか ^^;)

 女王陛下はともかく、御机下や御侍史はメールでは使わないので、今後は段々と見かけないようになっていくのでしょうけど、書簡の場合はこれからもずっと残っていくんでしょうね。