意志力の科学

スタンフォードの自分を変える教室

スタンフォードの自分を変える教室

 先月から今月にかけては会社の業務が多忙を極め、帰宅時間も毎日遅く、睡眠時間も少なくなっていたので、通勤電車の座席に腰をおろして本などを開いてみても、瞬く間に眠りに落ちていってしまうような有様でした。

 ところが、この『スタンフォードの自分を変える教室』という本だけは別で、とても興味深い内容にグイグイと引き込まれて一気に読んでしまいました。
 著者はスタンフォード大学の医学部健康増進プログラム担当の健康心理学者および教育者であるケリー・マクゴニガル博士で、スタンフォードで彼女が行っている「意志力の科学」という超人気講座をベースにした内容となっています。
 「意志力」というと、とかく精神論や根性論に陥りがちですが、マクゴニガル博士の場合は、やらなければならないこと(仕事とか勉強とか)を先延ばしにしたり、やってはいけないこと(ダイエットしているのにたくさん食べてしまったり)をついやってしまう原因とそれに対する効果的な改善方法について、最新の医学・心理学の研究結果から得られたエヴィデンスに基づいて彼女自身の論理を構築しており、とても説得力がありました。

 この本のベースとなったスタンフォード大学の「意志力の科学」という講座は生涯教育プログラムの公開講座で、つまりはスタンフォード大学の学生ではない一般の人が聴講できるものです。こういう、単なるjust for funではなくて、quality of lifeの向上に直接役立つ内容の講座が一般に公開されているというのは、日本ではあまりみられないものであり、アメリカの良いところだと思います。大学というのは研究の場、学生の教育の場ではありますが、世界で行われている数々の研究を上手くまとめて解り易い形にして一般の人に向けて発信するという、つまりはアカデミックの世界と一般市民を繋ぐliaison(リエゾン)としての機能も、大学が担う重要な役割のひとつなんだなと思いました。

 それから、この本を読んでいる時に常に連想してしまったのが、小池龍之介住職などの本を通して知ったブッダの教えでした。最新の心理学の知見と2500年前の原始仏教とが通底しているのはたいへん面白いです。心理学が究極的に辿り着く先というのは、既に大昔にお釈迦様によって説かれていたことなのかもしれません。