『通訳日記』

 先のサッカー日本代表ザッケローニ監督の通訳を務めた矢野大輔氏によって書かれた本。4年に渡って日本代表に密着した矢野氏の日記(ノート19冊分)をまとめたものです。一般的に、小説とかドキュメンタリーといったジャンルに比べると、日記という形式は内容が断片的であったり散漫であったりして、読み物としてのパワーがいまひとつ弱いという印象を持っていた私は、読む前はそれほど期待していなかったのですが、コラムニストでサッカー通でもある小田島隆さんが年末年始の休み中に読んだ本の中で面白かったもののひとつとしてこの本を紹介しているのをラジオで聞き、「じゃあ読んでみるか」と軽い気持ちで読み始めました。しかし、通訳として代表チームの中に居て、しかも監督が選手達に伝える全ての言葉を聞いたという立場にあった者にしか書けない内容の濃さにグイグイと惹かれ、ページをめくる手が止まりませんでした。テレビの中継や新聞やネットニュースから自分が得ていた情報というのは、ほんの一側面の僅かな断片でしかなかったのだなあと強く感じ、実際にはこんなにも熱いドラマがあったのだと驚き、感動しました。そして、ザッケローニ監督に対するリスペクトが強くなり、この日本代表メンバーに対する愛着が深まりました。出来ることなら、このまま時間が止まって、このメンバーのまま、ザッケローニのもとで永遠に日本代表であって欲しいとさえ思いました。次の大会に向けて一刻も早く世代交代しなくてはいけないので、その願いは勿論叶うはずもありませんが、この本を読むとそう感じずにはいられませんでした。

 よく「結果がすべて」というフレーズを耳にします。確かにそうです。でも、サッカーというのはおよそこの地球上で最も競争が激しく厳しいスポーツであり、そこで結果を残すのは並大抵のことではありません。確かにブラジルでは惨敗でしたし、先頃オーストラリアで行われたアジア杯でも不甲斐ない成績に終わってしまいました。以前の私でしたら、この結果だけを見て容赦ない批判を加えていたことでしょうが、この本を読んだ今はとてもそんな気持ちにはなれません。世界を相手に戦ったこうした経験が糧となり、次の世代へ引き継がれていき、日本のサッカーが少しずつでも前進していくことを願ってやみません。