戌年に読む犬の本(その2)

ロミオと呼ばれたオオカミ

ロミオと呼ばれたオオカミ

 年が明けて暫くの間は「今年は戌年だな」という雰囲気がそれなりにありましたが、5月ともなるともはや干支が何であるかなんて意識することはなくなります。
 ですが、「戌年に読む犬の本」というカテゴリーで今年中に3〜4冊は読みたいと思ってましたので、一応このテーマは静かに継続していきたいと考えております。

 2冊目の犬の本は、実は2か月ほど前に読み終えていた『ロミオと呼ばれたオオカミ』というノンフィクション。(「犬の本」という括りのはずなのに狼もOKとしたのは、まあ、種族としては近いし、この本の中にはたくさんの犬が登場するので)。著者はアメリカのアラスカ在住の写真家でありジャーナリストであるニック・ジャンズ氏。アラスカのジュノーという湖畔の街に一匹の黒い大きな雄の狼が現れるところから始まり、著者のニック・ジャンズ氏との「交流」をきっかけに、他の住民との関わりも次第に広がっていきます。

 本の内容については、ここでは詳しく書きませんが、私にとって最も大きかったのは、この本を読んで「狼という動物のイメージが180°変わった」ということです。狼というと「人や家畜を襲って害を与える悪い動物」というイメージを持っている人が多いのではないかと思います。しかし、この本によりますと、これまでに狼が人を襲ったという記録はアメリカではほとんど無くて(数十年でたった1〜2件か?)、他の動物(アラスカですとグリズリーという熊や大きな角を持った鹿など)に襲われる事故の方が多いですし、飼い犬に襲われて怪我をしたり、場合によっては命を落とすことの方が圧倒的に多いのだそうです。

 では何故、狼に対して悪いイメージを持っているのかというと、私の勝手な想像ですが、『赤ずきんちゃん』という童話の影響が大きいのではないかと思います。『赤ずきんちゃん』という童話に出会うことなく子供時代を過ごす人は、少なくとも日本では、ほとんどいないのではないでしょうか。そして、この童話によって、日本全国の良い子のみんなの心に「狼=悪いヤツ」という間違ったイメージが強固に植え付けられてしまうのです。三つ子の魂百まで、と言いますが、幼い頃に受け取ったこういうイメージというものはそう簡単に変化するものではありませんし、世の中の大抵の人は狼と直接触れ合って「狼って本当はいいヤツじゃん」という真実を知る機会もありませんので、大人になっても「狼は悪いヤツ」というイメージは変わらないのでしょう。そう考えると、『赤ずきんちゃん』という寓話のなんと罪深いことか。こんな本は直ちに発禁にして、幼稚園などでの読み聞かせも禁止にすべき、などと極端なことは思いませんが、せめて「いい狼」が登場するお話を広めたり、狼の本当の姿を知る機会があるようにして欲しいものだと強く願います。