職場の風景

 金曜日の夕方、定時を過ぎると週末ということもあってか、大抵の社員は割と早めに帰っていきました。私はまだやることが残っていたので、パソコンに向かって仕事を続けておりました。ふと気付くと、少し離れた所に女性社員が一人立っていました。その人は入社10年ぐらいで、同じフロアだけど、私とは直接的な関係は無くて、顔を合わせれば挨拶をする程度で、特に親しいわけでもありません。その女性の直属の上司の近くで何やら佇んでいるので、何をしているんだろうな、と気になりつつも私はパソコンに向かっていると、その女性が急に鼻をすすり始めました。ああ、花粉症なんだぁ、大変だなぁ、と思っていると突然涙声になって上司に話し始めました。彼女が言うには、今日がこの職場で働く最後の日なのだと。4月からは別の部署へ異動になり、その研修のために3月の最終週からそちらへ行ってしまうので、もうここへ来ることは無いとのこと。その女性は、割と体も大きくて、サバサバした感じで、いつも子分を4〜5人引き連れて社内を闊歩している姐御的な感じだったので、そんな人がしおらしく涙を流している姿を目にして、普段とのギャップが大きいことに驚いてしまいました。驚くと同時に、ちょっと羨ましくも感じました。と言いますのは、私がこの職場を去る日には恐らく泣かないだろうし、寂しさよりは解放感の方が強いだろうし、涙が出るとしたらそれは悲しい涙ではなく、嬉しい涙であろうから。同じ職場で同じ時間働いていたとしても、愛着を持っているのといないのとでは日々の充実感も違ってくるのでしょうね。