メキシコ人

 もう随分と前の話になりますが、ロサンゼルスに暫く住んでいたことがありました。アメリカの大都市ともなれば白人の他にもアフリカ系、ラテン系、アジア系など数多くの人種がいるわけですが、ロサンゼルスという場所柄、とりわけ多く見かけたのがメキシコ系の人たちでした。ある日、私がロサンゼルスのバスに乗っていると、あるバス停で高齢の御婦人(白人)が乗車してきました。その時は座席が空いていなかったのですが、その高齢者の姿が目に入るや否や、時間にしたら1秒も経たないうちにサッと立ち上がって席を譲った人がいました。見ると、メキシコ系と思しき若者でした。私なんて「この国でもこういう時は席を譲った方がいいのかな」などと考え始めてもいない段階で、条件反射的に席を譲った若者を見て、素晴らしいと思いました。それがごく普通の道徳心からなのか、何か宗教的な教えからなのかは分かりませんが、深く感動しました。そしてそれが私にとってのメキシコ系の人たちのファーストインプレッションとして鮮烈に私の心に刻み込まれました。その若者がたまたまそうだっただけなのかもしれませんが、それをきっかけに「メキシコ系=心優しい人たち」と思うようになり、今でもそれは変わりません。

 しかしながら、ハリウッドのアクション映画に出てくるメキシコ系といえば99%が麻薬関係のギャングです。勿論、実際にそういう方々もいらっしゃるのでしょうけど、本当は大部分は善良で、バスの中で席を譲った若者のような心優しい人に違いありません。映画の中でメキシコ系がそのように描写されることについて、私は強い違和感を覚えてしまいます。

 映画に出てくる極悪メキシコ人はたくさんいますが、中でも「悪そうだなコイツ」と思ったのが『ボーダーライン』という映画に出てくる人物です。(以下ネタバレあり)アメリカの当局がメキシコ内に潜伏する麻薬組織のボスを拘束し、車でアメリカ国内へ連れていこうとします。組織の子分たちはボスを奪還しようと国境の検問所の手前で襲撃を仕掛けますが、アメリカの精鋭部隊に返り討ちにされてしまう、というシーンがあります。ここでスキンヘッドの頭から首にかけてタトゥーを入れた男が出てくるのですが、こいつが凄え悪そうで、普通に立っている姿はそうでもないのですが、頭を後ろに反らせて首のタトゥーがよく見えるアングルですと極悪人に見えます。こういう見せ方は映画的に上手いなぁと思いますし、よくこんな役者を見つけてきたなぁ、もしかしたらホンマもんのギャングじゃないだろうかとさえ思ったほどでした。

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結局はあっけなく射殺されてしまうこの男ですが、これはこれで私の心に刻まれたメキシコ系の姿ではありました。


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