深夜のエレベーターで

 うちの会社の敷地の隅っこの方に古い建物があり、昔は製造ラインが入っていたのですが、現在では下の方の階は生産された製品の一時保管場所として、上の方の階はパッケージや段ボール等の包装資材を保管する倉庫として利用されています。
 その倉庫へ、先日、入社2年目の若いA君が生産に必要な包装資材を取りに向かいました。A君はここのところずっと夜勤シフトに入っていて、その時の時刻は深夜2時ごろ。建物の中には誰もおらず、最小限の電灯しかついていない薄暗い状態でした。そんなちょっと不気味な感じの中をA君は上の階へ行くためにエレベーターに乗りました。それを離れた場所からたまたま目撃した先輩社員のJさん、ちょっとイタズラしてびっくりさせてやろうと企みました。Jさんは、A君が乗り込んだエレベーターの扉が閉まるのを確認すると、エレベーターの中のスピーカーに繋がるインターフォンの受話器を取り、女性の声色を使い弱々しい声で「たすけて・・・」と囁きました。それを聞いたA君は恐怖に慄き、文字どおり腰を抜かしてその場にへたり込んでしまいました。エレベーターは一旦上の階に着きましたが、すぐにそのまま1階へ戻って来て、A君はJさんと後から来た他の社員に抱えられるようにしてエレーベーターから出されました。その後も暫くの間(2時間ぐらい)は体を動かすことが出来ず、休憩室でぐったりとしていたそうです。
 さすがに悪いことをしたなと思った先輩社員のJさんは、あれは自分がインターフォンを使ってイタズラしただけなんだよ、と説明するのですが、A君は「いや、あれは絶対に本物のユーレイの声でした!」と頑として聞き入れません。夜勤が明けて朝になってA君の上司が出社して来ると、A君は「僕は聞いたんですっ!、あれは本物でした!」と必死に説明しました。それ以来、A君は夜勤から外され、昼間の勤務専門になったそうです。
 Jさんの演技が上手かったとはいえ、いまだにあれが本物だったと信じているA君はバカだなぁと思います。こんなにバカだとは思いませんでした。もし本物なら「たすけて」と言われたなら助けてやって、その代わり仕事を手伝ってもらうぐらいはして欲しかった。今は猫の手も借りたいぐらいの忙しさで、ユーレイは足は無いけど手はあるだろうから、何かの役には立つだろうに。でも、もしも同じ状況に私がいたとしたら、やっぱりビックリしただろうなぁ ^^;)