台風が来る夜に

 台風の接近に伴い、直撃コースからは外れているとは言え、急に激しい雨が降ったり強い風が吹き荒れたりしていました。職場の人達は早々に仕事を切り上げて帰っていきましたが、私はいつもとさして変わらない時刻に会社を出て岐阜へと向かいました。

 岐阜には、ある有名な、全国でも屈指のバーテンダーがいるバーがあり、かねてから行きたいと思っていながら、まだ数えるほどしか行ったことのないバーがあります。いつも割と混んでいて、私にとってはやや行きづらい雰囲気でしたので。ただ、行けない期間が長くなっても行きたいという気持ちは変わらずにいたところ、平日の夜の、台風接近中のため出歩く人が少ない日であれば多分お客さんもそうたくさんはいないだろうと考え、そのバーへ行ってみました。ドアを開けて中へ入ると、お客さんは年配の男性が一人いただけでした。私はカウンターの端っこの席へ腰を下ろしました。
 私は、他のお店ではアイラ系のスコッチウイスキーを飲むことが多いのですが、最高のバーテンダーがいる店ではやはりカクテルを飲まなきゃ勿体無いので、カクテルばかり3杯ほど頂きました。1杯目はヘンドリックスのジンを使ったマティーニを作ってもらいました。通常のマティーニは短時間で飲み干すものなのですが、今回のマティーニ はジンが冷蔵してあった関係で特別のレシピとなっており、液温が低いためゆっくり時間をかけて飲んでも構わないとのことでした。オリーブではなくて、レモンピールが入っていて、華奢なグラスに注がれているので見かけはファンシーな感じなのですが、とても辛口でガツンと来る味でした。
 2杯目は、こちらのマスターのオリジナルの和菓子をイメージしたカクテルを頂きました。和菓子をイメージした飲み物とかスイーツは世の中にたくさんありますが、そのほとんどは「和をイメージした洋菓子」のテイストになっているのが現状で、それに対して「和をイメージした和菓子」のテイストを作ることに挑戦したのがこのカクテルとのこと。大納言リキュールやヨモギビター、きなこビター、煎茶、葛湯など数種類の和の素材がミックスされているとのことで、それぞれの風味がバラバラになるのではなく、全体がまろやかに調和していました。甘すぎず、かと言って弱すぎることもなく、絶妙の甘さ加減でした。素晴らしいカクテル、と言うかもはや作品と呼ぶのがふさわしいハイレベルのカクテルでした。
 3杯目は、マスターが敬愛し、少なからず親交があるというYMO坂本龍一へ捧げる一杯として創られたカクテル「Perspective」を頂きました。Perspectiveは解散前のYMOの最後のアルバム『サーヴィス』の一番最後に収録されている曲で、その曲をイメージしたそうです。その曲は聴いたことが無いのですが、カクテルの方はグレープフルーツの微かな苦味とミントの爽快さがマッチした不思議な美味しさでした。

 3杯ですけど、それぞれのアルコール度数は結構高めでしたので、久しぶりに酔いました。そんなに頻繁には通えないお店ですけど、また台風が来てお客さんが少なそうなタイミングを狙って訪れてみたいです (^^)

(このお店は以前はスマホで撮影しても良かったですが、いつからか撮影禁止になっていましたので、今回は写真はありません。スマホでじゃんじゃん撮影してSNSにアップされるのは、確かにこのお店のポリシーに合わないのでしょうね。)